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(No30) 京都らくご博物館 【秋】 〜吉朝さんを偲ぶ〜 鑑賞記その3 

 京都らくご博物館と題して京都国立博物館の講堂で落語会が年4回開かれる。
 今回(平成18年10月27日)は秋の会。「吉朝さんを偲ぶ」というサブタイトルが付いている・・・・・の3回目。
 

 



(3)桂米朝・桂千朝・桂よね吉 特別対談

 高座の上にパイプ椅子が3脚置かれた。かなり高くなっている上に、後ろには何もない。「あれ、もしバランス崩して後ろにこけたらめっちゃ危ないなあ」と私の隣の二人連れがしゃべっていたが、同感である。
 進行はよね吉。対談は米朝師匠と千朝。

よ「千朝師匠は、うちの師匠と同期になるんですよね」
千「昭和49年で、全くの同期です。
 学年は吉朝さんが一つ上やし、内弟子に入ったんも、吉朝さんの方が早いんですけどね。吉朝さんは家の印刷業を手伝うゆうて、まあゆうたらフリーターですわ。
 私は高校行ってましたさかい、卒業してからです」

よ「米朝師匠、うちの師匠の第一印象は?」
米「・・・よお覚えてへんねんけどな」(よね吉、千朝がずっこける)
米「まあ、素人番組とか出てたから、器用やったな。私、『素人名人会』の審査員やってたんやけど、その楽屋へ来て、『実は・・・・』ゆうて。何をこないオドオドしてるんやろ、て。まるで悪事でも働いてるみたいで。
 まあ、噺家に弟子入りするて、そないええことでもないけどな」

よ「どうですか。うちの師匠は、ゆうことを聞くええ弟子でしたか」
米「答えにくいけどね(会場笑い)。
 まあ、日常生活ではね。そら、ちゃんとゆうこと聞くけど、ネタに入るとね、一種、自分の考えゆうもん持ってたから。ハイハイゆうてても、その通りやりよらへん(会場笑い)」
千「割と要領がええ。何でも器用でした。笛や三味線もやるしね。大工仕事なんかも。(米朝)師匠の十姉妹(じゅうしまつ)の小屋かて」
米「あれ、そうか(会場笑い)。近所に大村昆さんが住んでてね。あこの子供が何でも飼いたがるんやけど、飽いたら何でもうちに持ってきよる。近所やからね。(あの十姉妹も)猫が一匹ずつ取っていきよった」

 何かヤバイ話になりそうなんで、よね吉が「まあ、そうゆう話はね・・」と話題を変えようとしたが、米朝師匠は委細かまわず、
米「猫ゆうのはねえ。あれ、金網の上とかね、前の方とかで、ぼ〜っと昼寝してるふりして。猫というのは、うまいこと関心ないてな顔してんねん。そんで安心させといて、びやっ!っと。ほんで一匹ずつ減っていく」

よ「どうです。同期で、師匠の愛情がほしいとゆうか、嫉妬心みたいなもんは」
千「そら多少はあるよ」
米「まあ、嫉妬心とかゆうんと違(ちご)うて、競い合うゆうんか、あいつより早よ、このネタを覚えたいとかゆうのはあるわな」

よ「内弟子同士で家事の分担はあったんでっか」
千「ぼくらの時代は内弟子が3人おったからね。ぼくと吉朝さんのほかに米八ゆうのがおったから。
 一人米朝師匠のかばん持ちでついて行ってても、二人おるからね。ぼくらの時は楽でした。
 そやけど当時、師匠の息子さん、高二(小米朝か?)と中二が二人いたはりましたやろ。内弟子3人と合わせて食い盛りが6人。日に米3升炊きましたからな」
 米朝師匠が「3升炊いたか」と嬉しそうに笑う。

よ「うちの師匠はいたずら好きやて聞いたことがあるんですが」
千「シャレというか、ギリギリやね。師匠の物真似で電話すんねん。それが似ててな。
 何べんもするもんやさかい、ええかげんにせえ!ゆうて怒鳴ったら、そんな時に限ってほんまに(米朝)師匠からの電話やねん」

よ「どうですか。うちの師匠と落語の話で議論したこととかは」
米「まあ、内弟子出てからやな」
よ「吉朝さんは、師匠とこ弟子入りする前から米之助師匠のとこお稽古に行ったりしてたからね。
 師匠が夜お酒飲みはるつきあいとかするんですが、吉朝さんが一番酒の相手になるんですわ。落語のことよお知ってるから」
よ「うちの師匠、お酒は強ないでしょ」
米「強ない」
千「師匠んとこ、朝によお、粕汁よばれる(ご馳走になる)んやけど、そこに師匠が前の晩の燗冷まし(かんざまし。日本酒で燗をつけたまま飲み残して冷めてしまったもの)をだばだばだば〜って入れはるんですわ」
米「朝からまっ赤っ赤な顔してたな」

よ「何すんねんな。さて、お話は尽きないんですが、そろそろ時間なんで。早(はよ)うに向こ行ってもた、師匠不孝のとこがあるうちの師匠ですが、今日かてどっかで聴いてるんやないかと思うんですが、どうですか、一言」
 米朝師匠、視線を落としてしばし黙した後、
米「・・・・本当に惜しいな。・・・・(顔をあげ、左右を見て、少し微笑み)他の弟子が亡くなった時、惜し(く)ないとは言わんけど。(会場笑い。しばらくして、また真顔に戻り)これ取っといてくれゆうたら、しっかり取っとける。(また、よね吉に笑顔で)とるゆうても、写真撮るんとちゃうで。(再度、真顔で)なぜ取っとけよ、ゆうのがわかる男、こみいった勉強もしてる男やった・・・・」

 「まだまだ聴きたいことはあるのですが・・・」とよね吉が締めて対談は終わった。
 「・・・・本当に惜しいな」そう言った時の米朝師匠の顔が心に残った。その「惜しさ」が痛いほどわかった。
 そして、その師匠の言葉を横で聞いている千朝の表情も心に残った。痛かった。敬愛する師匠に心から惜しまれている夭折した天才の同期。そして、その言葉を横で聞かされている、「彼ほど惜しまれてはいない」自分。
 短く軽い対談と思っていたが、思いのほか重いものだった。

※ 文中の失礼極まりない表現、どうぞお許しいただきたい。



(4) 桂吉朝 「ふぐ鍋」

「前の高座がずいぶん賑やかでしたが、その分私のとこで寝んようにお願いします。
 まあ、私は次の(桂)春団治師匠までのつなぎでございますんで、まあ、8時間半ほどやらせてもらおかと思てます。

 食欲の秋とか申しまして、マツタケ!うわさは聞いとるんですが。カズノコ・・・。まあ、そないおいしいもんとは思わんのですが」。

「クジラ!今や高級品ですからな。昔は貧乏人・・・・ちゅうか庶民の食べるもんやったんですが、今、『昨日、クジラ食た』なんてゆうたら『悪いことしたん?』て聞かれますな。
 今はそうでもないですが、昔はぜいたくゆうたらすき焼きでした。しかも、そのすき焼きに卵つけて食べるゆうたら、こんなぜいたくなかったですな。
 うちなんか兄弟が多いさかい、一人に1個卵がおませんねん。兄貴と二人で1個でした。上の兄ちゃんだけ1個なんです。
 『何で上の兄ちゃんだけ!』てゆうたら、おかんが『兄ちゃん、高校生やから。勉強せなあかんし』て。
 そん時は『ああ、せやな』と思てたんですが、よお考えたら勉強と卵と何の関係がおまんねん」。

「今、日本人はクジラ食べるゆうて外国からえらい非難されてますが、ねえ?昔から食べてたんやから。
 ほたら、牛はどないなんねん
 イルカかて食うてたんです。そしたら、イルカみたいに知的な動物を食べるなんて、て。アホは食べてもええんかい
 てっちりてのは、何であない高いんでしょうな」

 ここでどっと会場が沸く。吉朝は「ぼやいてばっかしですが」と続けたが、会場の皆が笑ったのはボヤキが続いたことより、(「○○の話やけど聞く?」「あんた、話ばらばらやなあ」という大木こだま・ひびきの漫才のように、)やたら話題をころころ変えるおかしみゆえではないかと思う。

「てっちりは高いんですが、中には安い店もあるんです。
 具体的な名前を出すと何かと差し障りがあるんで、ピィ〜!・・・てな店へ行きますと・・・。まあ、TVをご覧の方にはわからないでしょうが」

 よくやしきたかじんの番組などで、スタジオではモロに言っているが、とても実名では放送できない内容の時、セリフに別の音(ピィ〜という音や銃声など)をかぶせて隠すことがある。
 吉朝はそれを真似ているのである。もちろん、自分でピィ〜と言っているのだからスタジオでもわからない。

「てっちりでは鍋の横に、ガラをほかす(捨てる)入れもんが置いてますな。まあ、骨壷です・・」

 と、その時ドスン!という大きな音がした。「平成紅梅亭」は、読売TVの一室で公開録画している。その音は、お客さんの一人がバランスを崩して、セットの壁にぶつかったようだ。

「大丈夫ですか?セット壊さんといてくださいよ。・・・・・そんなんで、こう・・・・。しかし、まあ・・・秋も深まって・・・・・(苦笑いして)どこまで行ったかいな?・・・」
 と、今度は吉朝が「プチッ!」と大きな声を出し、両手をハサミのような形にしてテープを切る手まねをした。
 要するに、思わぬハプニングで噺がわけわからんようになったんで、テープを切って再編集、もう一度戻ってやり直すという意味なのだ。

「ええ、そのピィ〜!・・・てな店に行きますと・・・(会場が笑うので)まだ何もおもしろいことゆうてませんけど。
 ええ、鍋の横に、ガラ入れ・・・・はい!何てゆう壷ですか?(と、前列のお客を指名する真似)そう、骨壷ですな。
 その安いピィ〜!ってな店に行きますと、こう、皿に盛ったぁる身ぃを(と、ふぐの身を箸でつまみ上げ、しげしげと眺めまわし)このまま、ここへ入れたなりますからな(と、そのままガラ入れに入れてしまう)。いっぺんいっぺんお鍋通さんでもええんで、非常に合理的です。
 まあ、安いんは安いんで何ぞわけがあるんですな」

「ふぐの肝てなもんは、ちょっとやばいんですが、そこがおいしいんやそうですな。
 で、『てっちり』の『てつ』ゆうのは、何の『てつ』かゆうと鉄砲の『てつ』なんです。
 もうちょっと厳密に言いますと「弾に当たる」、「たまにあたる」から鉄砲。
 しゃあから、よお『てっちり』て看板上がってまっけど、あら、当たりまっせえ、知りまへんでえてゆうてんのと同(お)んなじでんねんな」

「こんにちわ」
「おや、誰かと思ったら大橋さんやないかいな。しばらく見なんだが、どないしててん」
「へえ、ちょっと田中さんのお供で温泉めぐりを」
「ほお、温泉めぐり。そらよろしなあ。で、どの辺を」
「へえ、まず北海道の登別。でその後白浜寄って、指宿へ足延ばして、有馬まわって、草津行って、ついでに道後へ」
「どうゆう順番や」
「つまらんもんですが、(目をむいて、声を張り上げ)わざわざ!買うてきました」
「何やねん、それは」
「へえ、赤福餅」
「あんまりよそ行てゆいなや。せやけど、お土産買うてきてくれてありがとう」
「そらうちが暮らしていけんのもみんな旦さんのおかげ。足向けて寝られん思てます。
 奥さんの写真かてお仏壇にあげて、お線香立てて」
「何ゆうてんねん。まあ、ええとこ来たな。
 でや、奥でちょっとこんなこと(酒を飲む格好)の用意してんねん。差し支えなかったら、ちょっと飲んでいかへんか」
「え?差し支え?いいええ、そんなもん、おととしあたりから、ずっとおまへん。
 あ?奥さんでっか?いつもおぐしがきれいでんなあ。
 え?お土産すんまへんて?いえいえ、そんな、礼なんてゆうてもうたら損がいくてなもんで。いやいや、そんなそんな!お土産みたいな大層な!もんやおまへん!!」
 と、大きく両手を振って否定する。
「・・・やかましいなあ。でや、さっそくやけど」
と、酒をつぐ。一杯飲み干し、お替りを勧められ
「いや(と、いったん遠慮し)・・・・ですかあ?(と、飲む)
 しかし、ええお酒ですなあ。何てゆうお酒ですか?なになに・・・。清酒『犬の盛り』。なかなか爽やかなお酒ですなあ。
 おや、コノワタが出てますな。わたい、もうこれさえあったら。どれどれ・・・・・う〜ん!」
 と、右手でガッツポーズ。

「あんた、鍋ぇ食べるか?」
「・・・鍋ねえ。わたい、あんまり歯ぁが丈夫やない
「何ゆうてんねん」
「すんまへん。何の鍋でっか?」
「何でもかめへんがな」
「へえ・・・大体は何の鍋?」
「とりあえず食べえな」
「へ、へえ。・・・・とりあえず・・何の鍋?」
「わからんかえ?白菜にシイタケに・・・」
「いや、お野菜はわかるんです。その間から微笑んでおられます、それ、その辺の」
「あれか?あらテツやがな」
「へ?鉄?軍艦造る?
「しゃあから・・ングやがな」
「ング??」
「フフウや」
「どっか破れてるんでっか?」
「やかましいなあ。あらフグや」
「フグ?何やフグでっか。フグやったらフグてゆうてくれはったらええのに、それフフフゥてなこと言わはるさかい。
 ・・・・あの、ちょっと家に用事を思い出しまして」
「お前、おととしからずっと『差し支え』ないゆうてたやないか」
「いや、フグとなれば、ちょっとご辞退を。まだ、ちょっと時期が早い」
「時期が早いて、今が旬やがな」
「いや、そうゆう時期やないんです。
 うちとこ、こないだ旦さんのおかげで子供大学にやらしてもらいましたやろ。これまた、しばらくしたら、旦さんのお世話でええとこ就職させてもろて。
 段々出世して、そのうち、旦さんに嫁世話していただいて、子供にも恵まれて。
 わたいら、親孝行な息子と、優しい嫁、可愛い孫に囲まれて、せんど楽しい目ぇして、ああ生きててよかった。もう何も思い残すことはないゆう時にいただこう思いますんで。ちょと時期が早い」
そんな時分までたいて(煮て)られへん
「いや、昔から言いまんがな。鯛もあるのに無分別ゆうて」
「わいが請合うがな。え?こわいの?こわいの?なっさけ(情け)ないなあ」
「えらい、すんません。どうぞわたいにおかまいなく、食べとくんなはれ」
「わしかて食いたいけど・・・気色悪いがな。
 実はな、こらもらいもんやねん。素人やのうて、ちゃんと料理したやつやねんけど・・・なあ。
 まあ、誰ぞが来たら食べさせて、それで大丈夫やったら家族でよばれよ(食べようと)思て」
「それやったら実験台でんがな」

 と、台所が騒がしい。
「どないしたんや、騒々しい。
 え?いつものおこもさんが『お余りを、お余りを』ゆうてるて?
 お余りてなもん・・・・・・・・あるやないか。どや、おこもさんに食べさせて見極めてから、わいら二人が食べるゆうのは」
「さすが旦さん、腹が黒い。いや、ご名案です」
「こうなったら、なるべく毒の多そうなとこを・・・・フッ、フッ、フッ、フッ・・・」
「おかしな笑いよう(笑い方)、しなはんな」

 しばらくたって、旦さんが「ちょっと表行って、様子見てきて」と命じた。
「旦さん、上首尾、上首尾。こっくりこっくりしてました」
「ええ?ほんま寝てんのぉ?」
「ええ、寝言ゆうてました」
「寝言て、どんな?」
し、しびれる・・・・って冗談でんがな。大丈夫です。幸せそうな顔して寝てました」
「そうか、そら良かった。さあ食べ」
「食べ、て、そら旦さんから」
「あんたが見てきて大丈夫やゆうてんねんから、あんた先に食べたらええがな」
「そやかて、私が旦さんより先に食べるやなんて・・・・・人の道に外れる」
「わかった、わかった。こら、ただ口に入れるきっかけだけの話や。
 こうしよ。一緒に箸でつまんで、一、二の三!で口に入れよ」
「何や、パン食い競争みたいでんなあ」
「ええか、そう、ポン酢つけてな・・・・ちょっと、ちょっと!それは白菜や。どんな根性してんねん。  卑怯なこと、しいなや。ええか、一、二ぃの・・・三!」
 相手をけん制しながらも口に入れる。
 最初は口の中で転がしているような感じだったが、ついにごくり!と呑み込む。

 と、突然、手を細かくけいれんさせ、うつろな目で「あ、ああ、あああああ・・・」ともらしたかと思うと、箸をぱたっ!と取り落とし・・・・
「・・・・うまい!
「脅かしなはんな。
 しかし、旦さん、何ですな。フグゆうもんは、なかなかうまいもんですな。
 あ。これ、骨もついてる。これは、こうしゃぶって。いやあ、うまい、うまい。
 あっ!旦さん、それ私の分です
 え?トーフも食え、て?どれどれ。ホフ、ホフ、ホフ。あ〜、熱い!うまい!
「やかましいなあ。もっと静かに食べなはれ」
 と、わいわい言いながら、雑炊までして、すっかり食べ尽くしてしまった。

「え?どないしたんや?また、台所がやかましいがな。
 え?さっきのおこもさんがまた来たぁ?旦さんにお目にかかりたいゆうてるて?
 あっ?厚かましいやっちゃ。勝手に庭先に廻りこんでるがな。どないしたんや」
「ええ、旦那さま、先ほどのフグはもうお召し上がりになりましたか」
「聞いたか?大橋さん。よっぽどうまかったと見えて、お替りはないかと来よったんや。
 お生憎さん、フグはわいらがぜ〜んぶ、おいしゅういただきました」
「え?全部お召し上がりになった?そしたら、安心してわたいもよばれますわ」

 このオチが流れたとたん、会場の一部で感嘆のため息がもれた。私は事前に知っていたが、ご存じない方にとっては、このどんでん返しは新鮮なのだろう。


 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音等してませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 


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